カテゴリ : Exotic Grammar
掲載: 2010年06月28日 19:21
更新: 2010年06月28日 19:57
Interview & text:小沼純一(文芸・音楽批評家/早稲田大学教授)
映画 『朱鷺島 創作能「トキ」の誕生』
津村禮次郎(能楽師)、三宅流(監督)インタヴュー

佐渡トキ保護センターでの大量死が3月。自然界での産卵確認が4月。この卵の放棄が5月。トキへの関心がつよかったら、一喜一憂してしまうようなニュースが、今年、2010年になってから何度も届けられた。そんな折、1枚の試写状が届いた。『朱鷺島──創作能「トキ」の誕生』、監督は三宅流。
観世流の能楽師、津村禮次郎が30年来毎夏訪れる佐渡で新作能を披露する。題材はトキだったという。
では、どのようなものにするのか。能楽師は、特別天然記念物であり、国際保護鳥である鳥をめぐる人びとのおもい、歴史を考える。自らの手ではじめからつくってゆくのではなく、むしろ、現在におけるトキのありようを率直に反映するものとして、佐渡市の小学生が書いたトキをめぐる詩からことばを借り、イメージをふくらませ、テクストを織ってゆく。通常は文語体である能のテクストに口語体がまじり、近代以前にはなかった「電気」というような語もあえてとりこむ。さらに、実際の舞台では、鼓童のメンバーに加わってもらい、和太鼓や踊りが能の所作を交差する。
『朱鷺島』は、タイトルどおり、新作能がつくられてゆくさまのドキュメンタリー。長期間にわたって取材しつづけたというものではない。2006年の7月から8月にかけ、1カ月から1カ月半程度のものだが、淡々としながらも、逆にだれたところのない、時間のながれを感じる。
トキについては、たとえば小林照幸の『朱鷺の遺言』(中公文庫)でその古くから現在にいたるまでのヒトとのかかわりを、あるいは生態を知ることができる。田畑を荒らす害鳥として嫌われ、一方で肉は食べられることもあったし、特徴のある赤い色が好まれて乱獲もされた。いまも、この鳥をめぐっては肯定論否定論かまびすしい。
つねにヒトの側からさまざまに「解釈」されてきたといえる。
三宅流の映画はトキをめぐる見解を云々しようとはしない。新作能も同様だ。ただ、トキが空を飛んでゆく、そのさまが曲の最後におかれ、問いがひらかれる。
津村禮次郎が東京で作業をする。そして、本州から佐渡島へわたる。それは、場所の移動という以上に、どこか異界へむかうかのようでもある。海は橋懸かかりだろうか。つくられたテクストには、文語と口語が混じりあい、かつて小学校で飼われていたというトキの名がいくつもあらわれる。そうした名による過去、歴史が重なってゆく……。
津村禮次郎さんと三宅流さんと、あらためて、このドキュメンタリーについて話をする機会があった。以下、その記録である。多分に個人的ではあるけれど、この映画をどう観たかもある。『朱鷺島』に、そこにこめられているいろいろなもの——映画、能、創作、音、コラボレーション、トキ、などなどに関心を持っていただければ。
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